スティーブ・ジョブズが大学時代に学んだカリグラフィー(書体・文字デザイン)の授業が、後のMacの美しいタイポグラフィーに影響を与えたという話は有名だ。
当時の彼にとって、その授業は一見すると「将来の仕事には関係のないもの」だった。しかし、後になって、その経験がコンピューターの文字表現という新しい価値につながった。
人生には、一見すると本業とは関係のない経験が、思いもよらない形で後の仕事に生きてくることがある。
僕自身も、かなり紆余曲折のある人生を歩んできた。
牧師になるために大学へ進学し、卒業後は介護事業の現場と運営に携わった。
その後、音楽制作や動画制作のプロダクション事業を起業し、自分自身もアーティストとして活動した。
やがて、自分でライブコンサートを毎月開催するようになった。
企画やプロモーションだけではない。
当日の音響、照明、映像、出演、MCまで、すべて一人で担当したこともある。
これまでに20回以上の音楽イベントを企画・開催してきた。
そして現在は、介護事業、キリスト教会の牧師、教育、そして格闘家として活動している。
一生懸命やってきたことは、無駄だったのか?
30代を迎え、プロ格闘家を目指すことを決めた。
そして32歳を境に、それまで精力的に取り組んできた音楽、映像、アーティスト活動を、キッパリと辞めた。
理由は、プロ格闘家になるために、限られた時間とエネルギーを格闘技に集中させる必要があったからだ。
当時の僕は、もともといろいろな分野に興味を持つ性格だった。
すでに多くのことに取り組みすぎていた。
だから、これからは「足し算」ではなく、「引き算」をしていこうと思った。
やることを増やすのではなく、やらないことを決める。
格闘技に集中するために、音楽や映像の活動を手放した。
では、それまで一生懸命取り組んできたことは、すべて無駄だったのだろうか。
今振り返ってみると、決してそうではなかった。
むしろ、過去に身につけたものが、今の自分の中で思いもよらない形で生きている。
過去の経験は、今も生きている
音響の知識。
教会や老人ホームの音響設備を構築・運用するときに役立っている。
レコーディングやミキシングの知識。
現在の動画制作でも、オーディオ編集をするときに、コンプレッサーなどのエフェクトを使う場面で役立っている。
芸術を通して身につけた思考力。
音だけではなく、色、構図、物語、自然、周期など、さまざまなものを観察し、組み合わせて考える力が養われた。
イベント企画の経験。
20回以上の音楽イベントを企画・開催した経験があったからこそ、後に「格闘技イベントを自分でつくる」ということへの心理的なハードルが低かった。
ジャンルは違っても、イベントをつくるという本質には共通する部分がある。
機械や配線に関する知識。
音楽活動を通して機材や配線に詳しくなったことで、職場でも家庭でも、業者に頼らずDIYで解決できることが増えた。
外注する力。
音響や映像を外注するときも、何をしてほしいのか、どのようにしてほしいのかを具体的に伝えられる。
自分でやった経験があるからこそ、専門家に適切な指示を出すことができる。
業界を見る力。
音楽活動を通して、ライブハウス、プロデューサー、アーティストなど、業界の構図やキーパーソンを見分ける力が養われた。
その経験は、格闘技の世界でも生きている。
ジム、選手、興行主催者など、誰にアプローチすれば物事が動くのかを考え、積極的に人とつながっていくことができる。
そして何より、
「0から1をつくる」という実業家精神。
これは、音楽活動を通して身につけた大きな財産だと思っている。
無駄な経験なんてない
人生では、今やっていることが、将来どこで役に立つのか分からない。
だからこそ、今取り組んでいることを「これは将来役に立つだろうか」と損得だけで判断する必要はないと思う。
もちろん、人生のどこかでは「引き算」も必要になる。
すべてを続ける必要はない。
僕自身、格闘技に集中するために、音楽や映像の活動を手放した。
でも、手放したからといって、そこで得た経験まで消えたわけではなかった。
一生懸命取り組んだことは、自分の中に残っている。
そして、思いもよらない場所で、別の形になって現れる。
だから、あなたも今取り組んでいることを、とことん極めるつもりで、全力でやってみてはどうだろうか。
一生懸命努力して、一つの道を貫いていけば、そこには必ず新しい技能や発見がある。
そしていつか、その経験が、まったく別の場所であなたを助けてくれるかもしれない。
人生で積み重ねた経験は、決して無駄にはならない。

